減圧と減圧症

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拙稿「減圧と減圧症」の本文をそのまま掲載します。但し、数式と引用文献は省略しました。もとの掲載誌は日本高気圧環境医学会雑誌2000年35巻197-203頁です。図書館に行けば、数式及び引用文献の揃ったコピーを手に入れることが出来ます。

T 緒言
潜水及び圧気土木作業における高圧曝露から大気圧への帰還,あるいは航空作業ないし宇宙船の船外活動のような低圧状態への曝露にさいしては,減圧症として知られる障害に罹患することがある.一般に減圧症の発症は,減圧という刺激によって窒素などの生理的不活性ガス(以下,誤解のない限りガスとする)が生体内で過飽和状態となり,その過飽和状態が気泡を生じ,さらにその気泡が生体に様々な障害を引き起こすことによって成立する,として説明されることが多い.そして,極端な場合には,ビールの栓を開けたのと同じ変化が生体に起こって生じる疾患が減圧症である,と解説される.そのようなところからか,ややもすると減圧症の発症に至る一連の経過を単純な物理的な変化に帰してしまう傾向がないわけではない.しかしながら,減圧,過飽和,気泡の形成,及び減圧症の発症という四者の間の関係は極めて複雑で,容易には把握しがたいのが実情である.そこで,本稿においては,それらの関係がどのような事情によって理解され難いのか,その基本的な部分に重点を置いて以下に概説する.減圧表の評価制定など減圧に関するより実用的な側面の考察は別稿を参照していただければ幸い である.

U 減圧モデル 
加減圧に伴う不活性ガスの動態は取りも直さず減圧モデルに当たるので,この項のタイトルは減圧モデルとする.
 本論に入る前に,全ての議論の前提となる事項を記しておこう.それは環境圧力(生体の外部の圧力)の変化に伴ってガスがどのような速度で生体の内外に移動するかは,今もってなお計量的には把握されておらず,将来それが実現する可能性も極めて小さいと言うことである.以前,放射性同位元素を用いて生体内のガス分布などを調べたこともあったが,数学的な把握までには至っていない.したがって,これまでになされてきた議論の多くは単純化されたモデルをもとになされているので,その有効性に大きな制約があることを認識しておかねばならない.
 このような限界の中で,ガスの動態を取り扱う理論,言葉を替えれば減圧理論の内の主要なものについて解説する.
 加減圧に伴うガスの動態について最初に科学的なアプローチを行い大きな成果をあげたのは,二十世紀初頭に英国海軍の要請を受けて問題解決に取り組んだイギリスの当時の著名な生理学者ホールデーン(J.S. Haldane)教授で,その考え方に基づく減圧表は英国海軍,米国海軍のみならず,帝国海軍や海上自衛隊をはじめ多くの国で採用され,今に至るも大きな影響を残している.したがって,これは謂わば古典的減圧理論とも見なせるものである.本稿で古典的減圧理論と言うときは,この減圧理論を指すものとする.
 古典的減圧理論の骨子は,ガスを取り入れる場合,大気中のガスは血液が肺毛細血管を通る短い時間の間にすべて動脈血液中に移行し,このようにしてガスを多く含んだ動脈血はそのすべてを末梢組織に残してくることによって,ガスが体内に蓄積されてくる,というものである.したがって,動脈血中のガス分圧は大気中のガス分圧と等しく,組織中のガス分圧は静脈中のそれと同じになる.このような考え方によって体内に存在するガスの分圧は次のような指数関数の式で表される(古典的減圧理論に基づく減圧表制定の経緯,式の導き方の詳細,及び計算方法の実例はそれぞれ別稿に記しておいたので、要すれば参照されたい).

数式は省略

ここで,Ptはt時間後の組織内ガス分圧,P0は最初の組織内ガス分圧,Paは大気中すなわち動脈中のガス分圧,Tは当該の組織のガス分圧が当初の半分にまで減少するのに要する時間すなわち半減時間(半飽和時間ともいう)をあらわす.この式の中にはガスの移動する要因としての拡散の影響がどこにも見出されず,全ては血液の灌流に基づいて説明されるので,灌流モデルともみなせる.また半減時間が変わるごとに対象となる組織も変化していくので複数組織モデルとも言える.対象とする組織を具体的に考えると,組織量に比較して血流量の多い組織,例えば脳や肝臓などが半減時間の短い組織に当てはまり,逆に血流量の少ない組織,つまり腱などが半減時間の長い組織になる.
古典的減圧理論に基づく減圧方法は大きな成果を挙げて多くの国で用いられてきたものの,それに対する反論は1950年代に同じ英国の海軍生理学研究所に勤務するヘンプルマン(H.V. Hempleman)博士らのグループから出されることになった.反論の主な理由は,劇症までには至らない減圧症の症状の多くは関節部や筋肉の痛みなどほとんど同じ訴えを呈するので,発症の場として古典的減圧理論のように複数の異なる組織を想定するのは現実に合致しない,というものである.そこでヘンプルマン博士らは複数の組織の変わりに一つの組織を対象とし,しかもガスが灌流ではなくて拡散によって生体内外へ移動するという,単一組織拡散モデルによる減圧理論を提唱した.
この考え方による減圧式は次の二つの方法で表すことができる.その一つは,ある深度における組織内ガス量は経過時間の平方根とゲージ深度の積に比例するというもので,いわばルートモデルとも名付けられ,式に表すと次のようになる(拡散モデルにおける以下の式の導き方の詳細は別稿に記したので要すれば参照されたい).

数式は省略

ここでQは組織内ガス量に比例した値,Dはゲージ深度とするが,ここに示したようにQをガスの絶対量ではなくて指標とした場合には,深度と経過時間のみのきわめて単純な式でガスの動きを示すことができる.このルートモデルによる減圧表を米海軍無減圧潜水減圧表と比較すると,滞底時間100分までは極めてよく似ており,ヘンプルマン博士は米海軍の減圧表の作成に当たっては7個ほどの変数を要したのに対し(当時),ルートモデルでは深度と時間の二つだけの変数で同じ結果が導かれている,として拡散理論に強い自信を覗かせている.
 もう一つの式は,組織内にガスが飽和した場合のガスの濃度の割合を1として,時間の経過に伴ってその割合Fがどのように変化するかを表すもので,次のような級数モデルとでも称すべき数式で示すことが出来る.

数式は省略

ここでkは定数で,kの値に拡散係数等が反映されているが,kを決めてしまえば時間以外に変数はなく,対象とする組織は一つになる.ヘンプルマン博士は22分の経過で30%飽和するkとして0.007928という値を用いており,この方法を用いて作成された英国のブラックプール減圧表は高い評価を得ている.
 しかしながら,これら拡散理論による両モデルともその発展の経過を詳細にたどってみると,必ずしも十全には理解しがたい多くの仮説と人為的な処理に基づいてなされていることがわかる.
 ところで,これまで述べてきたモデルはいずれも組織内に溶けて存在しているところのガスを扱ってきたが,実際に減圧症を惹き起こすのは溶存しているガスではなく,気泡であるとする考えも有力である.気泡の内圧を ,外界の圧力を ,気泡あるいは気泡を取り巻く組織のエラスタンスをδ,表面張力をγ,半径を とすると,気泡に関してラプラスの式を改変して,次の関係が成り立つ.

数式は省略

 しかしながら,減圧症の発症にとっては当然気泡の大きさのみが問題となるのではなく,気泡の数と容積,さらには溶存しているガスも考慮しなければならず,気泡の出現そのものがいわゆる相転移という一種の複雑系であることも相俟って,気泡モデルを充分に把握するためには高度の数学的能力を要し,筆者の手に余る.ここでは,環境圧力が大きい場合は気泡のガスに対する透過性が減少するとした変動透過性モデル,マルチレベル潜水ないし繰り返し潜水において次の潜水によって減圧症に罹患するのに要する圧較差を減少させたreduced gradient bubble model,及びHillsが精力的な検討の結果導き出したある意味でhybridとでも称すべき熱力学モデルなどが存在することを記すに止めておく.
 減圧モデルには以上のほかに有力な確率モデルがあるが,これは以下の議論を経た後の方が理解しやすいので,後ほど触れることにする.
 
V 気泡の発生と消長
 気泡を論じるに当たって重要なことの一つは,純粋な水の中では気泡が生じるために要求される過飽和圧力が極めて高いことである.水の純度にもよるが,100気圧以上の過飽和圧力が必要とされている.一方,ヒトを減圧した場合,僅かに0.3から0.4気圧の過飽和圧力で血中に気泡が検出されている.
 この矛盾を説明する有力な仮説は生体内には気泡の基となる核(ガス核,微小気泡,気泡種子,微小キャビティなどと呼ばれる)が前もって存在しているというものである.ガス核はその存在を示唆する傍証や実験等があるものの,その具体的な姿は未だ明確には捉えられていない.表面が疎水構造をしたV字状の谷面の間にガス相を含んでいるとした所謂クレバスモデルを想定すると,後述するようにガス核の存在を説明しやすい.
 ここでもう一度気泡内外の圧力の関係を記した(4)式を見ていただきたい.すると,気泡が小さくなる,ということは半径rが小さくるのでそれに反比例して気泡内の圧力が増し,その分,気泡内のガス圧力も増加するので,気泡内のガスは気泡の外に移動し,気泡は縮小し消失する方向に変化することになる.つまり,大きい気泡は存在することが可能であるのに対し,小さい気泡はそれが不可能である,というおかしなことになって,気泡の出自を問うことが出来なくなってしまう.
 勿論,気泡が「宙に浮いてしまう」などということが現実にはあり得るはずもなく,気泡は厳然と存在しているわけで,以下に,消失するはずの小さいガス核が気泡に成長していくために必要な条件を考えてみよう.その一つはもっとも単純な条件で,気泡内のガス圧力が気泡外のガス圧力よりも小さくなることである.小さな球形の気泡では(4)式からわかるように気泡内圧が大きくなるのでそのようなことは起こり得ないが,クレバスモデルのように気泡の表面が球状の気泡とは逆に凹面を取るときは,気泡を外に引っ張る力が働くので,気泡内ガス圧力<気泡外ガス圧力の状態が出現し得る.この面からも,クレバスモデルが有力なモデルであることがわかるだろう.また詳細は省くが,減圧した直後にはガス圧力が逆転することも起こり得,Van Liewはこれをcross overと呼んでいる.2番目として,ガス核の殻の透過性が減少し,ガスが殻の間を容易には通過出来ない状態を想定することによっても,ガス核の生存が説明できる.Yountの変動透過性モデルがこれにあたる.3番目として,気泡形成に充分なエネルギーを供給し得る場合にも気泡は生存し得る.関節のように固く閉じ合わせられた二つの面に引っ張り気味に擦りあわせるような力が加わった場合にガス相が形成されることがあり,tribonucleationという言葉が用いられる.激しい血流も同様の力を有する.4番目として,逆に気泡形成に必要なエネルギーが最小限になるような状況が出現することも,気泡形成を促進する方向に働く.具体的には,気泡を挟む面が疎水構造を取っていれば,そのエネルギーは最小限ですむ.
 この気泡モデルから減圧と減圧症の関係を見ていくと,次のように面白いことがわかる.まず第一に,深いところでは外界の圧力が大きくなるので気泡内圧力も増加し,それに比例して気泡内のガス圧力も増加する.一方,組織内にガスが溶け込むためには時間がかかるところから,溶存しているガスの圧力はそれほど増加せず,したがって気泡内外のガスの圧較差が増大する.すると,圧較差が大きくなればなるほど,気泡内のガスを組織内に排出する働きが強まるために,気泡を消失させる観点からは,当初の減圧点は深い方が望ましいという,古典的減圧理論とは正反対の結論になってしまう.尤も,気泡が消失してもその分組織内のガス量は増えるわけで,むしろある程度は気泡の状態のまま肺を経由して体外にガスを排出した方がガス量の減少には有効であるという考え方もあり,単純ではない.
 航空減圧症のように低圧曝露に伴って発生する減圧症と潜水などの高圧曝露に起因して起こる減圧症との相違も,この気泡モデルからよく説明できる.というのは,酸素や炭酸ガスは不活性ガスに比して溶解度も高くまた体内で利用されることから,高圧曝露ではその存在をほとんど無視してもそれほど支障がないのに対し,航空減圧症では気泡を形成する不活性ガスの絶対量が少ないのにも拘わらず,酸素や炭酸ガスは基本的に生体活動に関連するものでその絶対量は変化しないところから,気泡内における酸素と炭酸ガスの割合が増加し,それらを無視することができなくなるからでる.
さらに,航空減圧症では飽和状態からの急減圧と同じように環境圧力が急速に低くなるために,気泡内のガス圧力が組織のガス圧力より小さくなって組織からガスが急速に気泡内に移行して気泡の増大化に拍車をかけ,一方,気泡が大きくなることは逆に表面張力が減少するために気泡内圧力がガスが流入したほどには増加しないことになるので,これらは気泡の成長に相乗的な作用を及ぼすことになる.低圧曝露実験では古典的減圧計算がそのままでは成り立たないことが往々にしてあるとされるが,これは以上のように説明することが可能である.また,病型が肺の塞栓症であるところのチョークスが低圧曝露実験で多いことも気泡が主に関与していることを示唆している.
 さらに,高齢者や手術や外傷などの侵襲を受けた人が減圧症に罹患しやすいことが知られているが,これも老化や組織の障害によってクレバス構造や疎水面が増えたことによるものとして説明することができる.
 このように気泡の存在とその動態は,減圧と減圧症について考察するに当たって避けて通れない課題であるが,気泡に関連する一連の現象は医学というよりもむしろ物理学や数学の分野とも言えるので,一般の医学関係の徒にとって理解は容易ではない.そこで,この項の最後に過飽和と気泡に関するシンポジウムの記録があるのを紹介しておく.本稿に於る記述も多くをそれに負っている.

W 減圧症の発症
 減圧症の発症に気泡あるいは過飽和が関与していることに間違いはないが,その実態は未だに充分には把握されていないのが実情である.
 そもそも気泡は生体のどこで形成されるのであろうか. 気泡の生成場所として,細胞内,細胞外液,静脈内,毛細血管内,動脈内などが考えられるが,いずれにも可能性がある.気泡が細胞内において新た(de novo)に発生するためには非常に高い過飽和圧力が必要とされるが,食作用などで細胞の外からvesicleが細胞内に導入されている場合には,小さな過飽和圧力によって気泡化する.細胞外液は圧力が僅かに低く保たれているため,気泡化しやすいとされる.しかしながら,圧力が比較的高いはずの肺動脈内でも気泡が発生し得るとする考えもある.英国のHennessyは血流から与えられるエネルギーによって肺動脈起始部で小さな気泡が発生し,気泡の成長には時間がかかるので,その気泡が肺毛細血管で捕捉されることなく体循環に進んでいくモデルを提唱している.
このように基本的なことさえ,未だに明確には判明していない.したがって,減圧症発症の機序としても,気泡による動脈の閉塞機転,気泡が集積することによる血流の鬱滞,気泡による組織の圧排あるいは破壊,気泡の刺激による各種伝達物質の放出など,さまざまな説がある.
しかも,個体が減圧症に罹患するか否かについても,個体がその時に置かれた個々の状況によって大きく左右される.すなわち,当該の高圧曝露における個体の運動量,環境温度,脱水の有無,潜水呼吸器の特性(炭酸ガスの蓄積等に関与する)等によって,同じ個体でも減圧症に罹患する可能性は大きく異なってくる.もちろん,年齢や肥満,外傷の既往の有無等,個体そのものの相違も大きい.また,もし卵円孔開存に伴う動脈の気泡による閉塞機転が減圧症の発症に関与しているとすれば(関係ないとする論文32)もある),減圧症の発症にとってより重要なのは過飽和圧力よりも卵円孔が開いているか否かの方になってしまう.あるいはまた,減圧症への発症のしやすさは減圧よりも補体など生体の特性の方が大きいとする意見もある.
しかし,逆に言えばこのように,減圧症の発症には極めて多くの要因が絡んでおり,一筋縄ではいかないことが広く認識されてきたのが,最近の傾向ともいえる.
この項の最後に,以上の議論からともすると誤解を与えかねない点があるので,それを記しておこう.それは気泡と減圧症の関係である.たしかに気泡が減圧症の発症と単純な関係によって直接に関与しているわけではないことはこれまで触れてきたとおりであるが,それでもって血中の気泡と減圧症が全く関係ないと断言することはできない.なぜならば,個々の発症と検知された気泡を密接に関連づけることはできないにせよ,全体としてみれば明らかに高圧曝露の程度と気泡の出現の間にはある程度の関連が見出されるからである.したがって,検知された気泡と減圧症の関連についてその限界を充分に認識しておけば,気泡を検知することが減圧方法を評価するに当たって,必ずしも無用ではないどころか,相応の価値を有するものであると考える.
 
X 確率モデル
前項までに述べたように,減圧の負荷から減圧症の発症に到るまでの過程は複雑であり,一定の凾数でその関係を表すことは殆ど不可能である.ということは,つまり,生体におけるガスの動態を想定し,その動きから気泡の形成,あるいは減圧症の発症等を導く所謂演繹的な方法には大きな制約があることになる.
そのようなところからか,米海軍のウエザスビ(P.K. Weathersby)大佐らは1984年に従来の演繹的な取り組みとは180度異なった帰納的なアプローチを提唱し,それは大きな流れとなって現在に至っている.とは言っても,筆者にはその考え方の詳細をここに記す資格がないので,ごく簡単にその概念のみを手短に述べておく.そのアプローチとは,それまでに蓄積されてきた膨大なデータを統計学的に分析して,最適の減圧スケジュールを見出すというものである.そこで用いられる統計方法は最尤法(maximum likelihood method)と言われるもので,減圧症への罹患は二項分布に従って生じることとし,許容できる罹患頻度において減圧症になる可能性が最小となる減圧スケジュールを導き出す,というわけだ.もっとも,米海軍ではこの考えに基づいて減圧スケジュールを決定したものの,それを海軍の潜水教範に掲載しようとして委員会に諮ったところ,潜水現場からの減圧時間が長すぎるというクレームに遭って,未だに実効ある形には至っておらず,減圧につきものの理論と実践の狭間に喘いでいるのも事実である(Vann,私信,1997).
 なお,最尤法を適用するに当たっては,ここに記した概念から明らかなように,信頼性の高いデータが存在することがその前提としてあるが,それらのデータが揃っており組織的に利用可能なのは米英加の3国にほぼ限られるという事情がある.日本では組織的に減圧データを集積するようなシステムは存在しない.したがって,独自に最尤法を用いて減圧方法を評価するすべはなく,全ては欧米に依らなければならないのが実状である.幸い,体格等の面から日本人は減圧症に罹患しにくい可能性があるので,欧米の結果をそのまま用いても危険性は少ないが,見方を変えれば,それはより効率的な減圧方法の追求を諦めてしまうことにもなる.

Y 結語に代えて
 ここに記したような減圧に関する基本的な問題は,もはや医学生理学の領分というよりも,むしろ数学ないし統計学あるいは生物物理学の範疇に属する課題となっている.しかるに,本邦の医学教育体系が欧米のそれとは大きく異なるためか,特殊な例を除いて医師の数学的能力には彼我の間で歴然たる差があるように思われ,医学関係者のみの力で世界に伍していくことは至難のわざとなっている.したがって,数学など異分野の専門的知識を有する人がこの分野に参画して来ることが切に望まれる.